先端技術によるゲノム創薬シンポジウム

 

午前の部 9:00-12:00

酵母から哺乳類への創薬  9:00-9:40 
座長 水上洋一(山口大医学部)

酵母ゲノム創薬-探索と解析-
赤田倫治(山口大工学部)
出芽酵母は真核生物で最初に全ゲノムが解読され,遺伝学が駆使できる最もパワフルなモデル生物である。ヒトの細胞と酵母はよく似ていることは常識となった。生理活性物質を効率よく酵母で探索し,得られた物質の標的や作用機構を解明できれば創薬につながる。酵母を利用した我々の創薬へのアプローチを紹介する。遺伝子の過剰発現を利用すると人為的に酵母を病気(増殖が悪くなる形質)にすることができる。これを治す(増殖能を回復する)薬剤が簡単に検出できる。この方法で既知薬剤やケミカルライブラリーから多くのヒット化合物を得ている。さらに,約4600株の遺伝子破壊株を網羅的に扱うことで探索した薬剤の作用機構も明らかにできると考えている。効率よいスクリーニングと薬剤作用機構の解析にも,やはり,酵母ゲノムはパワフルであることを示したい。


鉄代謝における鉄輸送体DMT1アイソフォームの機能
田淵光昭(山口大遺伝子実験施設)

鉄は、種々の酵素反応の補助因子として働く生命にとって欠くことのできない金属であり、また、それ自身が高い触媒活性を有するため、活性酸素産生など、極めて高い毒性を有する金属でもある。よって、生体内で鉄イオンの代謝制御は、極めて厳密にコントロールされる必要があり、その異常は直接的に疾患へと繋がる。しかし、その重要性にも関わらず鉄代謝制御機構については、つい最近まで分子レベルではほとんど明らかにされていなかった。DMT1(Divalent Metal Transporter 1)は、哺乳動物においてはじめて同定された鉄輸送体である。DMT1は、小腸上皮アピカル膜からの鉄イオンの吸収とトランスフェリン依存的に取り込まれた鉄イオンのエンドソーム内から細胞質への輸送の両方に機能することが明らかにされている。DMT1にはオルタナティブスプライシングによって生じるアイソフォームが知られているが、これらアイソフォームが生じる意義ついてはほとんどわかっていない。最近、我々は、これらアイソフォームが細胞種特的な発現と異なった細胞内局在を示すことを見いだした。本講演では、これらの結果をもとに予測されるDMT1アイソフォームの鉄代謝における機能的な意義について議論したい。
1. Tabuchi, M. et al. Biochem. J. 344, 211-219. (1999)
2. Tabuchi, M. et al. J. Biol. Chem. 275, 22220-22228. (2000)

疾患関連因子からの創薬  9:50-10:50 
座長 上野 均(宇部興産)

虚血性心疾患モデルのゲノム創薬への応用 
水上洋一(山口大医学部器官制御医科学講座)

虚血性心疾患は、今後急速な増加が予想される極めて深刻な疾患である。しかし、組織に対して誘発されるため病態メカニズムの直接的な解明はかなり立ち遅れている。そこで、細胞レベルでの虚血モデルの作製に取り組み虚血状態を反映する細胞モデルを作製した。このモデルを用いた結果、増殖に重要なMAPKが心筋虚血時に核に移行し、再灌流時に核内でPKCzetaを介してMAPKの活性化が行われていることを見出している。2次元電気泳動と質量分析計を用いた機能的なプロテオミクスの手法によって虚血時のMAPK下流因子の同定しており、この結果も合わせて報告します。この細胞レベルでの虚血モデルを用いた実験から再灌流時に分泌因子が大量に放出されており、細胞外に放出された微量未知因子群が血管新生、心臓の収縮機能に重要な役割を果たしていることがわかってきた。このときのオーファン受容体の発現についても検討しており、疾患に関連したオーファン受容体の解析からゲノム創薬の可能性についても考察したい。
参考文献
1) Mizukami, Y., et al, J. Biol. Chem. 272, 16652-16662 (1997)
2) Kawata Y., et al., J. Biol. Chem., 273, 16905-16912 (1998)
3) Mizukami, Y. et al, J. Biol. Chem., 275 19921-19927 (2000)
4) Kimura, M., et al , J. Biol. Chem., 276 26453-26460 (2001)

in vitro及びin vivo代謝標識法を用いた蛋白質翻訳後修飾の網羅的解析系の構築
内海俊彦(山口大農学部生物機能科学科)

 生体内に存在するすべての蛋白質の構造と機能を網羅的に明らかにすることを目的としたプロテオーム解析において、翻訳と共役した、あるいは翻訳後に生ずる蛋白質修飾の解析はその中心課題の一つである。 しかし、蛋白質リン酸化等の一部の修飾反応を除いて、プロテオーム解析における蛋白質翻訳後修飾の系統的な解析法は確立されていない。 我々は、これまでの研究から、蛋白質合成と共役した修飾反応や、小胞体膜上で生ずる蛋白質修飾反応の多くが、無細胞蛋白質合成系を用いた in vitro 転写/翻訳系での代謝ラベル実験により解析可能であること、さらに無細胞蛋白質合成系では生じない修飾反応については、COS 細胞で発現した目的遺伝子産物の代謝ラベルによりその多くが解析できることを示した(文献1-5)。
 本講演では、腫瘍壊死因子(TNF)に生ずる翻訳後修飾の解析を中心に、これらの解析手法ならびにその応用について紹介する。また、翻訳後修飾を利用した生理活性蛋白質の機能変換の試みについても紹介したい。
参考文献
1. Utsumi, T. et al. Mol. Cell. Biol., 15, 6398-6405 (1995)
2. 内海俊彦 生化学 69, 1004-1010 (1997)
3. Ishisaka, R. et al. J. Biochem., 126, 413-420 (1999)
4. Utsumi, T. et al. FEBS Lett., 500, 1-6 (2001)
5. Utsumi, T. et al. J. Biol. Chem., 276, 10505-10513 (2001)


クラミジア感染機構の比較ゲノム解析
東 慶直、藤 英博、三浦公志郎、白井睦訓(山口大医学部生殖・発達・感染医科学講座微生物学)

クラミジア属の細菌は脊椎動物を宿主とする偏性細胞内寄生性細菌である。なかでもヒトの呼吸器感染症を起こす肺炎クラミジアは、動脈硬化症や心筋梗塞と関連することから世界的に注目を集めている。我々の肺炎クラミジア日本株J138の全塩基配列決定は、我国で初めての病原細菌全ゲノム配列決定となった。肺炎クラミジアのゲノムは1070のORFから構成されており、外膜タンパクPmpや封入体タンパクIncなど他の生物にはないユニークな多数のORFを持つ。さらに100以上のORFが真核生物の遺伝子に類似し、進化上興味深い。現在、ネコクラミジアのゲノム配列決定を進めており、 in silicoの比較ゲノム解析により進化的成立課程や病原性の解明を目指している。 さらにポストゲノムシークエンスとして、真核生物のクロマチン関連因子や細胞骨格因子に類似するクラミジアORFについて、宿主であるヒトの相互作用する因子の同定と解析を進めている。また、クラミジアおよび感染宿主細胞の網羅的な遺伝子の発現解析を行ない、クラミジアの感染・増殖や宿主細胞の感染の感知・反応など感染機構の体系的な解明も進めている。今後の肺炎クラミジアの感染機構の解明の発展は、クラミジア感染や心筋梗塞等の予防と治療に大きな影響を与えるものと考えられる

企業が考えるゲノム創薬  11:00-12:00 
座長 井上愼一(山口大学理学部)

企業の立場から見たゲノム創薬(抗血小板薬を例に)
米田健治(宇部興産宇部研究所医薬研究部)

欧米の製薬企業はこの10年で合併を繰り返し巨大化してきた。この背景には今後本格化するであろうゲノム創薬のための研究開発費を捻出する為との見方がある。一方、セレラ社を代表とするゲノムベンチャーは次のターゲットを創薬にシフトし、21世紀にはベンチャー企業が創薬に大きな役割を果すという2極分化が囁かれている。代表的な抗血小板薬であるチクロピジンの作用点を巡って、巨大化する製薬企業と、特化するベンチャーが新薬開発にどのように係っているのかを紹介すると共に、ゲノム創薬の課題について企業の立場から考えてみたい。


創薬研究におけるヒト完全長cDNAの活用
太田紀夫(協和発酵協和発酵東京研究所 ゲノム情報グループ)

ここ数年、ヒトゲノムの解読が急速に進展し、特に創薬研究におけるゲノム情報の活用が重要となってきている。そうした状況下、ヒト完全長cDNAの収集と解析を目的としたNEDOプロジェクト(通称FLプロジェクト)が進められている。本プロジェクトでは、東大医科研とヘリックス研がオリゴキャップ法で収集した高い完全長率のcDNAクローン、ならびにかずさDNA研が収集した長鎖cDNAクローンより新規性の高いクローンを選抜し、平成11年4月からの3年間で約3万個のヒトcDNAクローンの全長配列を明らかにすることを目標としている。これらの中には機能が明らかにされていない多くの新規遺伝子が含まれているものと考えられ、新たな創薬ターゲットの候補も見出されるものと期待される。ここでは、FLプロジェクトの概要とその成果の活用に関して紹介したい。
参考文献: FLプロジェクトHP(http://www.nedo.go.jp/bio/)


サーカディアンリズムのシミュレーションと生物学的実証研究
橋本誠一(山之内製薬)

概日リズムは、ほとんどの生物に見られる生命現象であり、ヒトにおいても睡眠・覚醒リズム、体温リズム、ホルモン分泌リズムなど約24時間周期の多数の生体リズムが知られている。また、睡眠障害、うつ、不登校など、少なくともその一部にはリズム障害を起因とする様々な症状が知られている。さらに、薬物代謝や薬効・副作用の発現などに影響を及ぼす要因としても重要であり、各人に最も適した最適医療を提供するためには、概日リズムについての理解が必須となる。我々は、ショウジョウバエにおける概日リズムの分子モデルを数式化してこれまでの論文報告データと矛盾しない「概日リズムのシミュレーションシステム」を構築した。このシミュレーションシステムをもとに生物反応におけるノイズを考慮して、概日リズムの「3次元多細胞確率モデル」を構築し、シミュレーションにより「リズム発振機構における同調因子の特徴付け」を行った。シミュレーション予測を生物学的に検証するため、同調因子とその受容体の遺伝子探索を目的として網羅的遺伝子発現解析を実施した。見出した概日振動遺伝子について考察を加えて発表する。
参考文献
生体リズムと健康 :健康の科学シリーズ10 川崎晃一編 学会センター関西学会出版センター
細胞工学 vol.20 No.6 808-810 (2001) 「概日時計のノイズ安定性と同調機構」

午後の部 1:00-6:20

ポストゲノムにおける創薬 1:00-2:30   
座長 宮川勇(山口大理学部)

ポストゲノム時代の蛋白質分析のあり方について
岩松明彦(キリンビール)

蛋白質の化学構造解析は、1949年にP.Edmanにより開発されたフェニルイソチオシアネートを反応試薬として、N末端より逐次分解反応で1アミノ酸残基づつシークエンスを決定していく手法(エドマン法)に始まり、半世紀を経た今日まで、脈々と高感度化・高精度化・迅速分析化が図られてきている研究領域です。一つの分析対象に対して、これだけ長い期間、開発・改善が継続されているテーマは大変稀であり、今なお、この研究分野の難しさと将来への可能性が未だ残されている状態にあるといえます。1990年半ばまでは、エドマン法を如何に洗練していくかが蛋白質の化学構造解析を行ううえで最も中心的なテーマであり続けていたのに対し、ここ数年は、質量分析法による蛋白質の同定がテーマの主流となってきています。この新しい流れは、ゲノムプロジクトの進展により、存在するはずの蛋白質のシークエンスが、既にデータベース上に推定配列として報告されていることに起因するものであり、今日では、同定だけを行いたいのであれば、敢えて蛋白質の化学構造を直接決定する必要性が無くなったためです。質量分析器による蛋白質・ぺプチドの分析は、エドマン法を基にした分析に比べ、分析系全体の成り立ちが簡素であり、蛋白質化学の知識・理解が殆ど無くても、比較的簡単に解析まで行える研究領域になっています。そのため今日では、10年前の蛋白質化学のエキスパーとが解析を行うより、門外漢の研究者が行う質量分析による蛋白質の同定の方が遥かに微量で正確な結果が導け出せる状態になっています。しかし、ここに大きな落し穴が存在することにもなってしまっています。その理由は、蛋白質は多種多様の物理的・化学的性質をもった分子であり、その取り扱いを間違えると、まともな解析結果を与えない性質を持った蛋白質が数多く存在するためです。新発見に繋がるような蛋白質の解析を行いたいのであれば、蛋白質化学の知識・理解が必須の条件となり、求める研究の方向に応じた分析系を絶えず構築し、その改善・洗練を行っていく必要性があります。本シンポジウムでは、蛋白質の分析を行う上での基本的な知見と、ポストゲノム時代の蛋白質分析のあり方を中心に、幾つかの角度から蛋白質の分析に関する話題を提供します。


ミトコンドリアゲノムの障害とその維持
康東天(九州大学大学院医学研究院)

ミトコンドリアには核とは独立したゲノムが存在する。ミトコンドリアDNAは好気的ATP産生に必須であり、その維持は個体の生存に欠かせない。ミトコンドリアは細胞内最大の活性酸素発生源であり、その中に存在するミトコンドリアDNAは核DNAに比べ強い酸化障害を受けている。それに加えて、ミトコンドリアDNAは核DNAに比べ外因性の障害に対しても脆弱である。しかしながら、ミトコンドリアゲノムの維持機構に関しては以外なほど解明が進んでいない。複製の新たな阻害機構としての“ミトコンドリアDNA複製中間体の不安定化”とミトコンドリアDNAのヌクレオイド構造を中心に、ミトコンドリアDNAの障害と維持機構の最近の我々の知見を紹介する。現在、ミトコンドリアゲノムの破綻は老化や癌、心不全、糖尿病、神経変性などいわゆるcommon diseaseと呼ばれる多くの病態に深く関わっていると考えられており、ミトコンドリアDNA維持機構の理解はその破綻防止の方策の開発にも役立つであろう。
1. Tsutsui, H., et al., Circulation 104, 2883-2885 (2001).
2. Ide, T.,et al , Circ. Res. 88, 529-535 (2001).
3. Miyako, K., et al, . J. Biol. Chem. 275, 12326-12330 (2000).
4. Shimura-Miura, H., et al, Ann. Neurol. 46, 920-924 (1999).
5. Nishioka, K.,et all., Mol. Biol. Cell. 10, 1637-1652 (1999).
6. Miyako, K.et al., J. Biol. Chem. 272, 9605-9608 (1997).
7. Kang, D.,et al.., J. Biol. Chem. 272, 15275-15279(1997).

オーファン受容体からの創薬  2:30-4:00 
座長 乾誠(山口大医学部)

孤児受容体のリガンド探索
-ロイコトリエン受容体の解析を通してわかったこと
横溝岳彦(東京大学大学院医学系研究科 生化学分子生物学講座、科学技術振興事業団 さきがけ研究21)

1000種類以上あるとされるGタンパク質共役型受容体(GPCR)のうち、リガンドが同定されているものはわずか100種類にすぎない。リガンド不明の受容体は「孤児受容体」と称され、新規医薬品の標的分子として注目されている。我々は血小板活性化因子受容体(PAFR)(1)、ロイコトリエンB4受容体(BLT1、BLT2)(2-6)、システイニルロイコトリエン受容体(CysLT1、CysLT2)を単離・解析してきた。また、多数の孤児受容体をクローニングし、リガンド同定を進める過程で興味ある現象を見いだした。しばしば孤児受容体のリガンド同定の目的で使用されるCHO細胞やHEK細胞に過剰発現した場合、PAFRやBLTは容易に細胞膜上に発現し効率よくシグナルを伝達するのに対して、CysLT1や大多数の孤児受容体は細胞膜に発現せず、ERやGolgi装置といった細胞内小器官にとどまっていた。古典的には単独で受容体として機能すると考えられていたGPCRであるが、機能発現のためには他の分子が必要であるとする報告もある。本シンポジウムでは、我々が解析したGPCRの機能を紹介するとともに、細胞膜に移行できない受容体にも焦点を当て、孤児受容体のリガンド探索の問題点も討論したい。
(1) Honda, et al. Nature (1991) 349, p342-346
(2) Yokomizo, et al., Nature (1997) 387, p620-624
(3) Kato, et al. , J. Exp. Med. (2000) 192, p413-420
(4) Yokomizo, et al., J. Exp. Med. (2000) 192, p421-432
(5) Noiri, et al. , Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2000) 97, p823-828
(6) Yokomizo, et al. , J. Biol. Chem. (2001) 276, p12454-12459


オーファン受容体の内因性リガンドの探索とその創薬への応用
児島将康(久留米大学分子生命科学研究所遺伝情報研究部門)

ヒト・ゲノムが解読され、内因性リガンドが不明な数多くの生理活性物質の受容体(すなわちオーファン受容体)が見出されてきた。現在使用されている治療薬の60〜70%は細胞表面の受容体に作用するものであることから、これらの受容体とその未知の内因性リガンドは、直接創薬に結びつくターゲットとして重要である。ここではオーファン受容体の一つGHS-R(成長ホルモン分泌促進因子受容体)の内因性リガンドとしてわれわれが発見した、成長ホルモン分泌促進活性と摂食亢進作用を持つ新しいペプチド・ホルモン“グレリン”について、その発見の経緯から臨床への応用までをお話ししたい。
(参考文献)
1,別冊・医学のあゆみ 2001年3月15日発行 7回膜貫通型受容体研究の新展開
2,グレリン--内因性GH secretagogue としてのグレリンの発見 ホルモンと臨床 2001年 Vol. 49, No. 4

蛋白質相互作用からの創薬 4:05-5:35 
座長 河野道生(山口大遺伝子実験施設)

ゲノムからインタラクトームへ
伊藤隆司(金沢大がん研究所)

ゲノム科学は、構成要素の網羅的同定(構造解析)から要素間の関係付け(機能解析)の段階へと移行しつつある。どんな生体分子も他の分子との相互作用なしには機能を発揮し得ないので、今後のゲノム科学においては生体分子間相互作用の網羅的解析「インタラクトーム解析」が重要な位置を占めるであろう。そこで我々は出芽酵母をモデルとする蛋白質間および蛋白質-核酸相互作用の網羅的解析に着手した。既に前者については、分子遺伝学的手法(2ハイブリッド法)を系統的に利用して、出芽酵母が持つ6000の蛋白質間で可能な全ての組み合わせにおける相互作用を検討した(http://genome.c.kanazawa-u.ac.jp/Y2H)。こうして得られた相互作用ネットワークからどのようにして生物学的知識を獲得するのか、我々のドライ・ウェット両面からの取り組みを紹介しながら「インタラクトーム解析」の今後を展望してみたい。
参考文献
Ito, T. et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 1143-1147.
Ito, T. et al. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 4569-4574.
伊藤隆司 (2001) 細胞工学 20, 30-37.


蛋白質ドメインを介した分子間相互作用から病気を考える:「生体防御に重要な活性 酸素生成型食細胞NADPHオキシダーゼ」を例として
住本英樹(九州大生体防御医学研究所)

 本格的なポスト・ゲノムシーケンス時代を迎えようとしている。ゲノムシーケンスが分れば比較的簡単に遺伝子がコードする蛋白質のアミノ酸配列が分るが、蛋白質のアミノ酸配列が分ったとしてもすぐにその機能が解るわけではない。アミノ酸配列と機能を繋ぐ考え方に「蛋白質ドメイン」がある。蛋白質を分子解剖すると、いくつかの「塊」からできていることが分るが、これが「蛋白質ドメイン」であり、それは単なる構造上のユニットではなく機能上のユニットでもあり、ドメインだけを切り出した場合でも単独で活性をもつ。 私共は、生体防御に重要な活性酸素生成型NADPHオキシダーゼの活性化機構につい
て研究してきたが、この酵素の制御機構の理解とその破綻を引き起す遺伝的変異の理解には、「蛋白質ドメイン」が極めて有効であった。私共が見い出した新規ドメインの役割およびその3次構造をも交えて、オキシダーゼ活性化の分子機構を紹介したい。
参考文献:
住本英樹 (2000)「酸化ストレス・レドックスの生化学」(日本生化学会編 ) pp.35-43, 共立出版.
住本英樹 (2000) 実験医学 18, 2505-2511.
Hiroaki, et al. (2001) Nature Struct. Biol. 8, 526-530.
Ago, T., et al. (2001) Biochem. Biophys. Res. Commun. 287, 733-738.
Ago, T., et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA , in press.
Ito , et al. (2001) EMBO J. 20, 3938-3946.
Terasawa, H., et al. (2001) EMBO J. 20, 3947-3956.

分子レベルから個体への創薬 5:35-6:20 
座長 河野道生(山口大遺伝子実験施設)

細胞周期エンジンの始動に必要なブレーキ解除メカニズム
中山敬一(九州大学 生体防御医学研究所 分子発現制御学分野)

 細胞周期は種々のアクセル・ブレーキ役の分子群によって調節されており、その制御異常は発癌につながる。ブレーキとして特に重要なCDKインヒビターp27は静止期(G0)の細胞では高発現しているが、細胞が増殖サイクルに進行するとき(G1)、その発現は急速に低下し、細胞が増殖を続けている間は常に発現が抑えられている。このp27の発現制御は主にユビキチン化依存性タンパク質分解によって行われており、SCF/Skp2複合体がその反応を媒介する。われわれはSkp2ノックアウトマウスを作製したところ、p27の異常蓄積と共に核や中心体の過剰複製を認めた。またこのマウスではS→G2期におけるp27の分解は傷害されていたが、G0→G1移行におけるp27の分解は正常に行われていることが明らかとなった。われわれはこのSkp2非依存的な反応を行う分子を精製し、そのクローニングに成功したので、本シンポジウムで紹介したい。
<参考文献>
Nakayama, K., et al.., Cell, 85: 707-720, 1996.
Nakayama, K., et al.., EMBO J., 19: 2069-2081, 2000.
Ishida, N., et al.., . J. Biol. Chem., 275: 25146-25154, 2000.
Hara, T., et al.., J. Biol. Chem., 276: 48937-48943, 2001.


閉会の挨拶
広中平祐(山口大学学長

午後6:30-8:30
懇親会(参加費 無料)
山口大学医学部霜仁会館1階